「脂肪肝」は、人間ドックを受けた人の3分の1から見つかるといわれる肝臓の病気です。
進行すると、「肝硬変」や「肝臓がん」など、さまざまな病気の引き金になる可能性もあります。また、「沈黙の臓器」とも呼ばれる肝臓の病気は、症状が出たときには深刻な事態になっているケースも少なくないといいます。また、お酒の飲み過ぎでなりやすい病気として知られていますが、お酒を飲まない人や若い女性にも急増する病気です。
そこで今回は、肝臓の基礎や肝臓をいたわる方法をご紹介します!
脂肪肝とは?
「脂肪肝」とは、肝臓内に脂肪が蓄積している状態の事をいいます。
糖質は、たんぱく質や脂質と並ぶ栄養素のひとつであり、体内に入るとブドウ糖に分解され、身体を動かすエネルギー源となります。その際にあまり過ぎたブドウ糖は、肝臓や筋肉にグリコーゲンという形で蓄えられ、ブドウ糖が不足した非常時に再びブドウ糖に戻り、再度利用されます。しかし、蓄える容量には限界があり、肝臓や筋肉に蓄えることのできない糖質は、中性脂肪に変えられ体内に蓄えられてしまいます。中性脂肪は、皮下(皮下脂肪)や内臓(内臓脂肪)に溜まりますが、入りきらなくなると肝臓にの周りにもついてしまいます。そして、全肝細胞の30%以上が脂肪化している状態を「脂肪肝」と言い、肥満(BMIで25以上)と診断された人の20~30%に脂肪肝がみられます。
異所性脂肪は、臓器の働きを低下させうのが特徴であり、脂肪肝や肝炎・肝硬変・肝臓がん、心疾患などのリスクも高めてしまう、非常に怖い脂肪です。
脂肪肝の数値・健康診断での基準値:AST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTP
健康診断の血液検査の結果を見て、「AST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTP」など肝臓に関わる数値が高い場合は脂肪肝の可能性があります。
AST(GOT)、ALT(GPT)は肝細胞で、γ-GTP は胆管でつくられる酵素で、いずれも「トランスアミナーゼ」と呼ばれます。肝臓でアミノ酸の代謝に関わる働きをしています。肝細胞が破壊されると血液中に放出されますので、その量によって肝機能を調べることができます。
基準値は医療機関によって異なりますが、AST(GOT)・ALT(GPT)共に40前後、γ-GTPは男性:80、女性:30前後が基準になります。この数値を超えている場合は、軽度の脂肪肝の可能性があります。
コレステロールの診断基準と病気になるリスク脂肪肝がもたらす肝臓の病気
肝硬変
脂肪肝が長く続くと約15%が肝硬変になってしまいます。肝硬変とは、脂肪肝が進む事で炎症が生じ、細胞が壊れて硬くなってしまう状態の事です。さまざまな働きをしている肝臓ですが、肝硬変になるとその能力が3割以下になってしまいます。また、肝硬変まで進行すると肝臓が元の状態に戻りにくくなってしまうので、早めに生活習慣を改善する事が大切になります。
肝臓がん
脂肪肝が進行すると、肝臓がんの原因にもなります。肝臓には痛みを感じる神経がありませんので、自覚症状がないまま進行してしまう事も少なくありません。
お酒を飲まない人も要注意!脂肪肝の分類
脂肪肝は、アルコールの多飲歴の有無によって、「アルコール性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」に分類されます。
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)はさらに、脂肪沈着のみを認める「単純性脂肪肝(NAFL)」と壊死や炎症・繊維症などを伴う「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分類されます。
アルコール性脂肪肝
アルコール性脂肪肝は、アルコール多飲が原因で生じます。血液検査では、肝臓の数値を表すASTやALTの数値が高値となる特徴があります。飲酒の継続で肝炎や肝繊維症・肝硬変へ進行する可能性があります。禁酒により改善を図りましょう。
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、食べ過ぎによる肥満や糖尿病・脂質異常症などを基盤として生じることが多いです。
単純性脂肪肝(NAFL)
単純性脂肪肝は、肥満によるもので、肝細胞内に大小の脂肪滴が認められます。減量や食事療法などといった治療を行います。また、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へ移行することもあります。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の重症型で、肝硬変や肝細胞癌への進展の可能性があります。メタボリックシンドロームの合併が約半数にみられ、インスリン抵抗性が基礎にあると考えられます。炎症細胞の浸潤や肝細胞の風船様腫大などが認められます。治療は減量や運動・食事療法が重要であり、積極的な薬物療法を行います。また、メタボリックシンドロームの治療も併せて行いましょう。
脂肪肝の症状
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれていますので、脂肪肝になってもほとんど自覚症状が出ません!
しかし、血液がドロドロになりますので、血流が悪くなり、全身の細胞に酸素と栄養が行き渡らない状態になります。その結果、「疲れやすい」や「体がだるい」・「肩こり」・「むくみ」などの不調を感じる場合があります。
症状が出たときには深刻な事態になっているケースも少なくありませんので、手遅れになってしまう前に対処することが重要です。
痩せている女性でも脂肪肝になる4つの原因
(1)脂質や糖質の過剰な摂り過ぎ(肥満・糖尿病)・運動不足
食事で摂った脂質は、小腸で吸収され肝臓で脂肪酸に分解され、糖質はブドウ糖に分解されて、小腸から吸収された後、肝臓で中性脂肪に変化します。摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスが取れていれば特に問題はありませんが、脂質や糖質の過剰な摂り過ぎ、かつ運動不足などによって消費エネルギーとのバランスが崩れてしまった場合、使いきれなかった脂肪酸やブドウ糖が中性脂肪として肝臓に蓄えられてしまいます。
また、肥満や糖尿病・脂質異常症などを基盤として生じる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、インスリンの働きが低下している可能性があり、肝臓に脂肪がたまりやすくなりますので、脂肪肝になりやすいのです。
さらに近年では、糖尿病では肝硬変で死亡する率が高いことが分かり、これまで深刻に考えられていなかった脂肪肝が、あなどれない病気であると認識されました。ただ日本人における軽度の脂肪肝は、いわゆる肥満体型ではない人にもみられます。運動不足とファストフードなどによる不規則な食事で、わずか2~3kg体重が増えただけでも肝臓へ脂肪がたまる可能性がありますので、注意しましょう。
(2)お酒・アルコールの飲み過ぎ
お酒の飲み過ぎでも肝臓に中性脂肪が溜まります。これは、アルコールが分解する時に、中性脂肪が合成されやすくなるためです。また、肥満になると肝臓での脂肪酸の燃焼が悪くなりますので、肝臓に中性脂肪が溜まりやすくなります。さらに、アルコールの摂取量が多いと、肝臓の働きがほとんど解毒・分解に使われてしまいます。すると、エネルギーを身体に供給する働きが低下してしまい、肝臓内に脂肪としてため込まれて脂肪肝になってしまいます。
アルコールが原因の脂肪肝を「アルコール性脂肪肝」といいます。毎日3合以上の日本酒を飲む人の多くに脂肪肝が認められます。個人差はありますが、これはビールで大ビン3本以上、ウイスキ一ならダブル3~4杯以上に匹敵しますので、飲み過ぎには注意しましょう!
(3)過度なダイエット
過度な食事制限など無理なダイエットをしてしまうと、全身にエネルギーを送るためのたんぱく質が不足してしまいます。すると、送り出せないエネルギーが肝臓内にため込まれてしまい脂肪肝になってしまいます。この状態のことを「低栄養性脂肪肝」と呼ばれます。
(4)閉経による女性ホルモンの減少
女性ホルモンには、肝臓で作られた余分なエネルギーを皮下へ送る作用があります。しかし、閉経後に女性ホルモンが減少してしまうと、余分なエネルギーを皮下に送り出しにくくなり脂肪肝になりやすくなってしまいます。
あなたは大丈夫!?検査では見つからない「隠れ脂肪肝」とは?
脂肪肝の指標となるのは、血液検査での「AST(GOT)」・「ALT(GPT)」・「γ-GTP」の数値です。
ところが近年、数値が正常値にも関わらず精密検査を受けると脂肪肝が見つかる「隠れ脂肪肝」が増えているそうです。
下記の項目に3つ以上当てはまる場合は、脂肪肝の可能性があります。
✔ 週に3回以上お酒を飲む
✔ 通勤や買物に車を使う
✔ 20歳の時と比べて10kg以上太った
✔ ジュースなど甘い飲み物を好む
✔ 眠る2時間前に食事をする事がある
✔ 平均睡眠時間が6時間未満
ドクターおすすめ!脂肪肝を治療・改善する3つの方法
肝臓は再生能力に優れていますので、生活習慣が原因の脂肪肝は、食生活を見直したり運動をしたり禁酒をしたり、生活習慣を改善する事によって元に戻りやすいという特徴があります。
(1)脂肪肝を改善する食事・食材
①たんぱく質:豆腐・枝豆・納豆
脂肪肝は、たんぱく質が不足することでなりやすくなります。肝臓に送られてきた脂肪はたんぱく質と結びついてエネルギーになりますので、たんぱく質が不足してしまうと脂肪がそのまま肝臓に溜まってしまい脂肪肝になりやすくなります。そのため、痩せていても脂肪肝になることがありますので、注意しましょう。たんぱく質は、豆腐や枝豆などの植物性のものがおすすめです。
また、脂肪肝を改善する食材としておすすめなのが、納豆です。納豆は、肝臓の働きを助けるたんぱく質が豊富で、脂肪の燃焼や肝細胞の再生を促進するビタミンB2も含まれています。また、黒ごまには脂肪肝に有効だと科学的に証明されているビタミンEが含まれていますので、納豆の上に黒ごまを乗せて食べる「黒ごま納豆」がおすすめメニューです。
②果糖による糖質摂取を避ける
脂肪肝の治療のための食生活改善で気を付けたいのは糖質です。日常的に糖質を摂り過ぎていると、脂肪肝になりやすいことが証明されています。特に果物の果糖は吸収が良く、肝臓で中性脂肪になりやすいため、注意が必要です。
果物は、旬の味わいとして楽しむ程度がおすすめですが、毎日食べたい人は1日に1/2個を目安にして、朝食時に食べるようにしましょう。
③コーヒーやハイカカオチョコレートもおすすめ
コーヒーには脂肪肝の発生を抑える効果があるとの調査報告もあります。報告によると、肥満気味でコーヒーを飲む量が少ない人は、痩せていてコーヒーをよく飲む人に比べると脂肪肝が多いという結果でした。
また、チョコレートのカカオポリフェノールには、アルコールが原因の脂肪肝を改善することが証明されています。さらに、肝細胞の劣化を防ぎ、肝臓を守る効果もあります。カカオ70%以上のビターチョコで、1日30~40グラム程度を目安にしましょう。
食事の後は30分間横になるのがおすすめです。肝臓に流れる血液の量がアップしますので、肝臓内に栄養素が行き届きやすくなり、エネルギーに変換する働きが活発になります。ただし、そのまま寝てしまうのはNGですので、30分経ったら動き出しましょう。
(2)運動
脂肪肝の脂肪は筋肉で燃やすことができますので、脂肪肝の改善には筋肉をつけることが大切です。おすすめは、全身の筋肉の多くが集まっている下半身の筋肉を鍛えることです。スクワットなどで、大殿筋や大腿四頭筋などを鍛えましょう。
(3)アルコールは20~25gを目安に・休肝日を設ける
一日のアルコールの摂取量は20~25gを目安にしましょう。ビールなら大瓶(633ml)1本、ウイスキーならグラス1杯程度、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度、焼酎なら0.5合程度にして、週に1~2日は休肝日を設けるように心がけましょう。
また、アルコールが完全に分解されるのは、お酒を飲んでから約24時間かかると言われています。そのため、1日おきに休肝日を設けるのがおすすめです。
まとめ
内臓脂肪や皮下脂肪と違って、肝臓についた脂肪はとれやすいのですが、一方で脂肪は肝臓からつくという特徴があります。しかし、一時的に脂肪が減っても、生活習慣が元に戻れば再発します。そのため、再発した脂肪肝は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に進みやすい傾向がありますので、悪い生活習慣を断ち切るようにしましょう。
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