貧血にはいくつかの種類がありますが、貧血の中でも最も多いのが「鉄欠乏性貧血」です。
鉄欠乏性貧血は、鉄分の不足によって、頭痛やめまい・疲れやすいといった症状に加え、舌炎・口角炎・嚥下障害・スプーン状爪といった、鉄欠乏性貧血特有の症状があります。さらに、少ない酸素を体中に循環させようと心臓の働きも激しくなって負担がかかりますので、放っておくと心不全を引き起こす可能性もあり、命にも関わる非常に怖いものです。
そこで今回は、鉄欠乏性貧血の原因や症状・治療法をご紹介します!
鉄欠乏性貧血とは?
「鉄欠乏性貧血」は、貧血の中でも最も頻度が高い貧血です。
血液に含まれる赤血球では鉄分によってヘモグロビンが作られ、それが酸素と結びついています。そして血管を通り体の様々な部分に酸素を送り届けているのが健康な状態です。ところが鉄欠乏性貧血になると、鉄分が不足するためヘモグロビンも減り、赤血球の形も変化し、体中に送られる酸素まで少なくなることで起こる貧血です。
一般的に若年~中年女性に多く、わが国では貧血の約2/3を占めます。
原因
鉄欠乏性貧血をきたす原因は、鉄分の「吸収低下」・「需要増大」・「喪失亢進」に大別されます。
原因①:吸収低下(鉄分を栄養素として吸収できない)
胃切除・無胃酸症
胃切除・無胃酸症によって胃酸がないため、 Fe3+が Fe2+に還元できず、鉄分が吸収できません。
ダイエット・偏食
過度なダイエットや偏食によって元々の鉄分の摂取量が少ない状態です。
吸収不良症候群
原因②:需要増大(鉄分の必要性が多く結果として不足してしまう)
妊娠・授乳
胎児や乳児への鉄分供給のため、鉄分需要が増します。
成長期
成長期には骨格筋の発達に伴い、鉄分の需要が増します。
原因③:喪失亢進(鉄分を多く失っている)
月経・婦人科疾患(子宮筋腫・子宮内膜症など)・慢性消化管出血(がん・消化管腫瘍・痔核など)
慢性的な出血により、血液と共に鉄分を失います。
症状
鉄欠乏性貧血の症状は、その他の貧血に共通した症状とは別に、鉄欠乏性による症状が生じます。鉄分は、細胞増殖に欠かせない因子になりますので、まず細胞増殖能の高い皮膚や粘膜・爪などに症状が現れるのが特徴になります。
貧血に共通した症状
- 頭痛
- めまい
- 眼瞼結膜蒼白
- 動悸
- 息切れ
- 疲れやすい
鉄欠乏による症状
- 舌炎:舌前1/3の舌乳頭の萎縮・発赤・疼痛が生じます
- 口角炎
- 嚥下障害:食道粘膜が萎縮し、webと呼ばれるヒダが形成されます
- 萎縮性胃炎:時折胃にも病変が及びますが、萎縮性胃炎により鉄欠乏に陥っている可能性もあります
- スプーン状爪(匙状爪)
- 異食症:食物の嗜好の変化で、氷や土などを好んで食べる症状です
- 舌乳頭萎縮:赤い平らな舌
鉄欠乏性貧血の進行
鉄分の消費には順序があり、それに従って貧血症状も徐々に出現します。
まず血清フェリチンが低下し、次いで血清鉄が低下します。その後、ヘモグロビン濃度(Hb)が低下し、鉄欠乏による症状が出現します。
進行①:前潜在性鉄欠乏(自覚症状なし)
- 自覚症状(貧血)なし
- 様々な原因により、鉄分が欠乏するが、まずは貯蔵鉄(肝臓で蓄えていていた鉄分)で補える状態
- 血清フェリチンの低下あり
- 血清鉄の低下なし
- ヘモグロビン濃度(Hb)の低下なし
進行②:潜在性鉄欠乏(自覚症状なし)
- 自覚症状(鉄分)なし
- 貯蔵鉄(肝臓で蓄えていた鉄分)が尽きた状態
- トランスフェリン自体は増え、総鉄結合能(TIBC)・不飽和鉄結合能(UIBC)の増加
- 鉄血清の低下あり
- ヘモグロビン濃度(Hb)の低下なし
進行③:軽度の鉄欠乏性貧血(徐々に貧血症状あり)
- めまい・疲れやすいなど徐々に貧血症状が現れる
- ヘモグロビン合成の材料となる鉄分が減り、ヘモグロビン含有量の少ない小型で菲薄な赤血球が産生され、酸素運搬能も低下する
- ヘモグロビン濃度(Hb)の低下あり
進行④:重度の鉄欠乏性貧血(鉄欠乏による症状が現れる)
- Plummer-Vinson症候群やスプーン状爪など鉄欠乏による症状が現れる
- 最終的に組織鉄も減少し、細胞の代謝がうまく回らない状態となる
- ヘモグロビン濃度(Hb)の低下あり
予防・治療:鉄分の補充・補給が大原則
鉄欠乏性貧血の治療は、原因の除去と鉄分の補充(鉄剤投与)が原則となります。そのため、まずは鉄分不足の原因を探索し、原疾患があればその治療を行いましょう!
鉄剤投与
鉄剤の投与は、「経口投与」と「経静脈的投与」があり、1日50~200mgの経口投与が原則です。
経口投与
経口投与は副作用として、吐き気や心窩部痛などの胃腸障害が最も多い症状です。副作用が強い場合は、空腹時を避けて食後に服用するようにしましょう。また、症状が改善しても、貯蔵鉄を反映する血清フェリチン値が正常化するまで服用を続けることが重要です。
経静脈的投与
経静脈的投与は、経口投与の副作用が強い場合や、胃切除・消化管病変により鉄分の吸収障害がある場合、鉄分の喪失が多量な場合(潰瘍性大腸炎など)に例外的に行います。ヘモジデローシスや、稀にアナフィラキシーショックを伴うことがありますので、過剰投与に注意しましょう。
食事療法(鉄分摂取と鉄分を多く含む食べ物)
食事は1日3食規則正しく・バランス良く
過度なダイエットや朝食などの食事抜きが、思春期や若い女性の貧血の原因の一つです。また、インスタント食品や冷凍食品などの食べ過ぎにも注意が必要です!1日3食、バランスの良い食事を心がけましょう!
食事から鉄分をしっかり摂る
1日に推奨される鉄分の摂取量は、30~69歳の男性で7.5mg、女性で6.5mgです。
食品に含まれる鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。「ヘム鉄」は溶けやすく、体内に吸収されやすいため、効率的に鉄分がとれます。一方、「非ヘム鉄」は吸収率はあまり高くありませんので、たんぱく質やビタミンCなど、鉄分の吸収を高める食品と一緒に摂るようにしましょう。
<ヘム鉄を多く含む食材>
- 牛肉・豚肉・鶏肉のレバーやもも肉
- マグロ・カツオ・イワシなどの魚類
<非ヘム鉄を多く含む食材>
- 卵
- ほうれん草・小松菜などの緑黄色野菜
- 納豆・絹ごし豆腐・豆乳などの大豆製品
- あさり・しじみ・牡蠣などの貝類
- ワカメ・ひじき・のりなどの海藻類
- ごま
- アーモンド
鉄分の吸収を上げるたんぱく質・ビタミンCを多く含む食材を摂る
鉄分と一緒に「たんぱく質」や「ビタミンC」も摂りましょう!
牛肉や鶏肉などに含まれる動物性たんぱく質は、血液中の赤血球やヘモグロビンの材料となる大切な栄養素です。また、非ヘム鉄の吸収を高める効果もあります。
また、ビタミンCは、食品中の鉄が体で利用されるためになくてはならないものです。さらに、たんぱく質同様に非ヘム鉄の吸収率を高める効果があります。
<たんぱく質を多く含む食材>
- 牛肉・豚肉・鶏肉などの肉類
- 魚類
- 卵
- 牛乳
<ビタミンCを多く含む食材>
- レモン・イチゴ・グレープフルーツ・キウイ・オレンジ
- ブロッコリー・小松菜・ほうれん草
鉄分の吸収を下げる食品(緑茶・紅茶・コーヒー・ワインなど)に注意
たんぱく質やビタミンCなど、鉄分の吸収率を上げる食材がある一方で、「緑茶」や「紅茶」・「コーヒー」・「ワイン」に含まれるタンニンは、鉄と結びついて吸収率を下げる働きがありますので、飲み過ぎには注意しましょう!
まとめ
貧血は原因によって貧血の種類は対策が異なります。そのため、原因に合わせて適切な治療が必要になります!貧血に悩まれている若い女性は多くいらっしゃいますが、命にも関わる病気に繋がる可能性もありますので、「いつもの貧血」と思わず、貧血の症状が続く場合や心配なことがあれば、病院を受診して、医師に相談しましょう。
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