「がん」は日本人の2人に1人が一生のうちにかかる病気です。日本人の死因は、老衰や心疾患を抑えて、がん(悪性新生物)が第1位です。「がん=治らない病気」と思われがちですが、実は早期発見・早期治療をすることでおよそ9割は治る病気と言われています。
しかし、がん検診の受診率は平均50%以下です。最近は、新型コロナウイルスの影響でさらに減り、例年なら早期で発見できるはずのがん患者数千人の診断が遅れる恐れが不安視されています。
そこで今回は、専門医に教えてもらった「がん検診」についてご紹介します!
「がん」の基礎知識~がんとはそもそもどんな病気?~
健康な人でも身体の中ではがんになり得る細胞が1日に5000個以上生まれていると言います。免疫細胞がその都度それらを退治してくれていますが、免疫力が低下し免疫細胞が戦いに敗れると、がん細胞が体内に留まり増殖して塊(腫瘍)になってしまいます。
がん検診と健康診断の違いは?
健康診断
健康診断は、自身の健康状態を検査し病気の兆候がないかを調べます。
がん検診
がん検診は、がんがあるかないかを調べる検査です。がんを早期発見・早期治療する事で死亡リスクを減少させる事が目的です。
がん検診が40代から必要な理由
がんができ始めるのは大体30代くらいからです(若年で発症するものもあります)。ただし、早期発見できるがんの大きさは約1cmで、その大きさになるまで一般的に10~15年程度かかると言われています。そのため、40歳以上の方は健康に自信があってもがん検診を受けることを推奨します。
早期発見・早期治療が大切!がん検診ガイドラインから学ぶ検診
60歳以上になるとがんになる確率が急激に上がるそうです。そのため、定年退職した後の年代の方は特に注意が必要です。がん検診の中でも、厚生労働省が推奨しているのは「肺がん」「胃がん」「大腸がん」と女性の「乳がん」「子宮頚がん」の5つです。いずれも、各自治体によって費用が補助されているので、小額で受診できます。
がん検診①:乳がんの検診方法
乳がんは、年間約1万4000人も亡くなっているがんです、早期発見なら9割以上が治ると言われています。しかし、日本で乳がんの検査を受けている女性は、先進国の中でも低く40%程度に留まっています。早期発見のためにも、40代以上の女性は2年に1回検診を受けましょう。
※会社の健康診断の一部に含まれている事もあります。
X線マンモグラフィ:推奨グレードB
「X線マンモグラフィ」は、乳がんの検診もX線で撮影しますが、乳房は脂肪が多いので圧迫して薄く伸ばしがんができる乳腺組織をより見やすくします。そのため、乳房を挟む際に痛みを伴う場合があります。月経前は乳房が張って痛みが増す場合がありますので、月経後に検査を受けるのが推奨されています。
推奨グレードBであり、死亡率減少効果を示す相応な証拠があります。一方で、偽陽性・過剰診断・放射線誘発乳がんの発症の可能性があります。これらの結果から、推奨グレードBとし、対策型検診・任意型検診の実施を勧めます。
マイクロ波マンモグラフィ(開発中)
神戸大学で「マイクロ波マンモグラフィ」という世界初の検査機器が開発されています。この検査機器は、痛みのない乳がん検診が特徴であり、乳房の表面を軽くなぞるだけで乳房の中の様子を立体的に映し出し、がん細胞の位置を特定します。そのため、X線マンモグラフィでは見つけにくいがん細胞も見つけられると言われています。近い将来、医療現場で実際に活用される予定で開発中です。
がん検診②:子宮頚がんの検診方法
子宮頚がんは、子宮の入り口に発生するがんです。子宮頚がんのピークは、30~40代ですが、日本では20代の患者も増えてきている傾向があります。そのため、20歳を過ぎたら2年に1回検査を行いましょう。
※会社の健康診断の一部に含まれている事もあります。
細胞診検査:推奨グレードA
「細胞診検査」は、婦人科で子宮頚部の細胞を採取して、顕微鏡で調べる検査です。この検査では、子宮頸がんのがん細胞だけでなく、感染によって変化し、がんに進行する「異形成」といわれる状態の細胞を発見できます。
推奨グレードAであり、浸潤がん罹患率減少効果の確実なエビデンスがあります。細胞診検査の不適正検体割合は、採取器具の進歩や採取医の意識向上により改善しており、液状検体法では不適正検体割合のバラツキが小さく更に減少が期待できます。検診間隔は2年が望ましく、検体は医師採取のみとし、自己採取は認めません。
HPV検査:推奨グレードA
「HPV検査」は、細胞診と同様に採取した細胞が、子宮頸がんの原因であるウイルスに感染しているかどうかが分かります。細胞診の際に摂取した同じ細胞を利用して検査も可能です。
推奨グレードAであり、浸潤がん罹患率減少効果の確実なエビデンスがあります。ただし、細胞診単独法に比べて偽陽性が大幅に上昇し、1,000人あたりの偽陽性は42人ほどです。検診間隔は5年が望ましいです。
がん検診③:前立腺がんの検診方法
PSA検査:推奨グレードI
「PSA検査」は、採血のみの検査で、血液中にある前立腺に特異的なタンパク質の一種「PSA」の値を測定します。前立腺がんを診断するだけでなく、治療経過観察中の再燃・再発を見つける上でとても有効な検査です。PSAは前立腺がんの腫瘍マーカー(がんの発現に関連を持つと考えられている生体内のタンパク質)としても重要な働きをします。PSAの値が高くなるにつれ、前立腺がんである確率も高くなっていきますが、年齢により基準値が設けられています。
推奨グレードIであり、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現状では不十分でありますので、現在のところ対策型検診としては勧められません。任意型検診として行う場合には、受診者に対して、効果が不明であることと、過剰診断などの不利益について適切に説明する必要があります。
直腸診:推奨グレードI
「直腸診」は、医師が肛門より指を挿入し、患部を触診により直接診断する検査です。 診察台の上で行われ、仰向けになり両膝を抱え込む姿勢や横向きになりひざを曲げる姿勢で検査が行われます。
推奨グレードIであり、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分でありますので、対策型検診としては勧められません。任意型検診として行う場合には、受診者に対して、効果が不明であることと、過剰診断などの不利益について適切に説明する必要があります。
がん検診④:肺がんの検診方法
肺がんは、がんによる死亡者数「男性1位」「女性2位」とがんの中でもトップクラスの死因をほこります。そのため、40歳以上の方は、1年に1回胸部X線による肺がん検診を行う事が推奨されています。
※会社の健康診断の一部に含まれている事もあります。
胸部X線検査:推奨グレードB
「胸部X線検査」は、検査機器の前に立ち、X線写真を撮影する検査です。撮影したX線写真を見て、色の濃さや臓器の形などに異常がないか確認していきます。もしも、病変があった場合はCT写真を撮りさらに詳しく検査を行うそうです。
推奨グレードBであり、死亡率減少効果を示す相応な証拠があることから、対策型検診及び任意型検診における肺がん検診として推奨します。ただし、二重読影、比較読影が必要です。
がん検診⑤:大腸がんの検診方法
大腸がんは、がんによる死亡者数「男性3位」「女性1位」とがんの中でもトップクラスの死因をほこります。そのため、40歳以上の方は、1年に1回便潜血検査による大腸がん検診が推奨されています。
※会社の健康診断の一部に含まれている事もあります。
便潜血検査:推奨グレードA
「便潜血検査」は、ブラシで便の表面を2日分採取し、便に血液が混ざっていないかを調べます。大腸に大きながんやポリープができると出血し便に血液が混ざりますので、このような簡単な検査で済みます。検査で陽性になった場合は精密検査として大腸内視鏡検査を受ける事になりますが、大腸がんが見つかるのは陽性の人のうち3%程度です。
推奨グレードAであり、死亡率減少効果を示す十分な証拠があることから、対策型検診及び任意型検診における大腸がん検診として、便潜血検査を強く推奨します。
がん検診⑥:胃がんの検診方法
胃がんは、がんによる死亡者数「男性2位」「女性4位」とがんの中でもトップクラスの死因をほこります。そのため、50歳以上の方は、2年に1回胃部X線か胃内視鏡のどちらかの検査を受ける事が推奨されています。
また、ピロリ菌に感染した事のある人や慢性胃炎の人は、胃がんになりやすいと言われていますので、精度の高い胃内視鏡検査がおすすめです。
※会社の健康診断の一部に含まれている事もあります
※胃部X線検査に関しては40歳以上にも実施も可 年1回の実施も可
胃部X線(バリウム)検査:推奨グレードB
「胃部X線(バリウム)検査」は、胃を膨らませる発泡剤と胃の中を見やすくするバリウムを飲みX線写真を撮ります。台の上で身体の向きを変えなければならず多少の腕力が必要となります。検査時間は4~5分程度です。バリウムは身体から排出されないと便が詰まったり、腸に穴が開いてしまったりする事もあるので、検査後は下剤の服用や多量の水分を摂取する必要があります。
推奨グレードBであり、死亡率減少効果を示す相応な証拠があることから、対策型検診および任意型検診における胃がん検診として胃X線検査を推奨します。近年、高濃度バリウムの普及後、誤嚥の報告が増加しています。不利益について適切な説明が必要です。
胃内視鏡検査:推奨グレードB
「胃内視鏡検査」は、口の中にカメラのついた管を入れていきます。胃の中が鮮明に映し出されますので、がんなどの病変があった場合に高い精度で見つける事ができます。さらに、胃だけでなく十二指腸や食道の様子も合わせて診てもらえるそうです。つらいイメージのある胃内視鏡ですが、リラックスして上手く呼吸ができればそれほど苦痛は感じない人もいます。負担をより軽減するために、病院によっては鎮静剤を使って意識を低下させる方法や鼻から挿入する経鼻内視鏡もあります。
推奨グレードBであり、死亡率減少効果を示す相応な証拠があることから、対策型検診および任意型検診における胃がん検診として胃内視鏡検査を推奨します。不利益については偽陽性、過剰診断のほか、前処置の咽頭麻酔によるショックや穿孔・出血などの偶発症があります。対策型検診・任意型検診としての実施を推奨します。検診間隔は2~3年とすることが可能ですが、重篤な偶発症に迅速かつ適切に対応できる体制が整備できないうちは実施すべきではありません。
がん検診⑦:すい臓がんの検診方法
上記で紹介した厚生労働省が推奨する5つのがん以外にも注意したいのが「すい臓がん」です。がんによる死亡者数は「男性4位」「女性3位」と決して無視できないものです。自覚症状が現れにくく進行が早く、発見された時には進行している事が多いのが特徴です。糖尿病・肥満・タバコを吸う人は、すい臓がんになりやすいと言われていますので、注意しましょう。
腹部超音波検査
「腹部超音波検査」は、超音波を用いて、内臓から返ってくる反射波を画像化して診断する検査です。仰向けに寝てた状態で腹部にゼリーを塗って検査します。すい臓の他に腎臓・肝臓・胆のうなども確認しますので、腎結石や脂肪肝なども見つけられます。
がん検診の費用・料金
がん検診の費用・料金は、自治体で実施しているがん検診・健康保険組合や所属する職場の健康診断でのがん検診など、実施方法によって異なります。
市区町村におけるがん検診の平均単価は下記の通りです。
まとめ
早期発見・早期治療をすることでおよそ9割は治る病気と言われています。また、がん細胞は40歳以上で発見しやすいと言われていますので、40歳以上の方は特に定期検診をするようにしましょう。
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