日本で「大腸がん」と診断されている人の数は、毎年10万人以上です。部位別のがん死亡者数では、男性が第3位、女性は第1位と、決して無視できない病気です。そのため、40歳以上の方は、1年に1回便潜血検査による大腸がん検診が推奨されていますが、受診率は50%前後と低迷しております。
そこで今回は、大腸がん検診の有効性やメリット、検査方法についてご紹介します!
大腸がん検診の目的は?
上記のグラフは、大腸がんのステージ別の生存率を表したものです。生存率とは、がんと診断された患者さんのうち、ある時点まで生存されている割合のことです。
グラフより、大腸がんはステージ0やⅠのような初期の段階など早期に発見すれば高い確率で完全に治すこと(治癒)ができることが分かります。しかし、早期のうちは自覚症状がないことが多く、自覚症状が現れた時には既に進行している可能性があります。そのため、無症状の時に年に一度大腸がん検診を受け、早い段階で大腸がんを発見し、適切な治療を受ける「早期発見・早期治療」が大切です。
大腸がん検診を受けるためには
大腸がん検診には、市区町村や企業で行われる集団検診と、個人が希望して受診する個人検診(人間ドック・自費検診)の2種類があります。
なお、市区町村が実施する大腸がん検診の自己負担額は、一般的に1,000円以下です。大腸がん検診の受診を希望される方は、各検診受付窓口までお問い合わせください。
大腸がんの検査・治療の流れ
検査①:大腸がんの診断のための検査
まず、大腸がんの有無を検査します。
- 直腸指診(直腸がん)
- 大腸内視鏡検査
- 注腸造影
検査②:病期の判定のための検査
大腸がんを発見したら、病期(stage)決定のために必要な検査を行います。
壁深達度(T:depth of Tumor invasion)
- 大腸内視鏡検査
- 超音波内視鏡(EUS)
- CT
リンパ節転移(N:lymph Node)
- CT
- MRI
- 超音波内視鏡(EUS)
- 腹部超音波
遠隔転移(M:Metastasis)
- CT
- PET/CT
- MRI
- 腹部超音波
- 胸部単純X線像
検査③:病期(stage)の決定
病期はTNM分類によって決定され、治療方針決定や予後予測の目安になります。
- 全身状態を含めた総合的な評価
- 患者様への説明
検査④:病態に合った治療方針の決定
早期に発見されたがんであれば、内視鏡治療で終了します。さらに、がんの深さに応じて追加の治療を検討します。一度がんができた人は、別の場所にできる確率も高くなりますので、定期的な検査が推奨されます。定期的に検査を受ける事で9割方以上の大腸がんは治癒します。
大腸内視鏡検査
手順①:内視鏡検査の説明
先生から内視鏡検査についての説明を受けましょう。
痛みについて
腸は伸ばされたり、ねじれたりすると痛みを感じます。従来の検査では、大腸を観察するため内視鏡挿入時に空気を入れますので、そのせいで大腸が膨らみ、痛みが生じました。しかし現在では、ほとんどの病院で炭酸ガスを使用しています。炭酸ガスは、腸管から血液に吸収されやすい性質を持ちますので、膨らんだ腸は速やかにしぼみ、痛みの軽減に繋がっています。
それでも、痛みが怖いという方は鎮静剤を使用しましょう。鎮静剤によって完全に意識をなくす訳ではありまんし、痛みを感じにくくなりますので、より検査が受けやすくなります。
ポリープが見つかった場合
ポリープの大きさが1cmくらいまでのものであれば、その場で取る事もあります。
ポリープを切除する方法は大きく2つあります。1つは「ポリペクトミー」といわれる金属製の輪をポリープの茎のくびれている部分にかけ、そこから電流を流して切除する方法。もう1つは、「ESD」といわれ、ヒアルロン酸などを注入してポリープを隆起させ、電気メスで周囲の粘膜を切除する方法です。
手順②:検査数日前~当日までの注意点
検査当日までの禁止事項などを確認しましょう。検査の前々日は、大腸に残りやすい繊維の多い野菜や種のある果物は控える必要があります。前日は、それに加え乳製品やアルコールも控えます。そして、検査当日は何も食べず、水分をよく摂りましょう。
手順③:検査前の腸管洗浄
まずは、腸管洗浄液(およそ1.8リットル)を2時間かけて飲み、腸の中を綺麗にします。病院によっては、便秘など大腸の調子が悪いときに便が出やすいように前日に腸管洗浄剤を飲む場合や、自宅で腸管洗浄液を飲む場合もあります。トイレに行くたびに便の色が薄くなっていき、看護師さんに便の状態をチェックしてもらいます。
手順④:内視鏡検査
内視鏡を挿入して、検査開始です。一番奥の盲腸まで内視鏡が達したら、今度は戻しながら再度細かく大腸を検査していきます。問題がなければ検査終了です。
<ポリープがあった場合>
詳しく調べるために、青い色素を散布し、ポリープの粘膜の模様を観察します。悪性の可能性が高いと判断された場合は、ポリープを切除します。切除したポリープは病理検査に出し、悪性かどうかを詳しく調べます。
手順⑤:検査後の説明
検査後は、その後の生活についての説明を受けます。検査後は身体の中の水分が減っていますので、水分の補充を行い、消化の良い軽い食事から始めます。
ポリープを切除した場合は、出血の可能性がありますので、2週間は激しい運動や飲酒を控えましょう(病院によって日数は異なります)。
大腸内視鏡以外の検査方法について
大腸がんの診断が確定した後は、CT検査をはじめ、様々な画像検査や腫瘍マーカーの測定を行い、大腸がんの進行具合を調べます。
CT検査
CT検査は、大腸がんの周囲の臓器との位置関係やリンパ節転移・腹膜播種(多臓器への転移)の有無等を調べます。 大腸がんは、肺や肝臓・腹膜などに転移することがあり、肝臓への転移が最も多いのが特徴です。
MRI検査
MRI検査は、CT検査同様、直腸がんの周囲の臓器へのがんの広がり具合やリンパ節転移の有無を調べます。また、肝臓MRIはCTと比較してより小さな肝転移の病巣を検出することに適しています。
注腸造影検査
注腸造影検査は、大腸がんの存在診断や術前の部位確認のために行います。特に進行している大腸がんでは、「apple core sign」と呼ばれる、全周性の壁不整を伴う狭窄がみられることがあり、診断に有用です。
CTコロノグラフィー検査
CTコロノグラフィー検査は、CTを用いて大腸をスキャンし、がんの正確な位置や大きさ・形・腸の狭さの程度を立体的に観察できる検査です。大腸の内視鏡と同じように大腸内部も細かく観察でき、大腸がんやポリープ発見を行います。内視鏡を入れる訳ではありませんので、高齢者・身体が不自由な方など体力に自信がない方には適していますが、小さなポリープや平坦なポリープなどの病変は見つけにくいという特徴もあります。最近では注腸検査の代用として使用されることもあります。
PET検査
PET検査は、放射性のフッ素を含んだ糖類の薬液を注射し、がんが糖類を取り込むことを利用して、その分布を撮影し、同時に撮影したCT画像と重ねることで全身のがん細胞を検索する検査です。大腸がんはこの糖類を取り込むことが多いため有益な検査となりますが、保険診療上、他の検査で転移・再発の診断が確定できない場合のみ検査対象となります。また、がんが小さい場合や、活発ではない場合には見つけられない可能性もあります。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーは、血液検査の一種であり、一般的にがんが存在すると異常値を示します。しかし、腫瘍マーカーの結果だけではがんの有無を診断することはできません。また、通常、術後再発の確認などに使われることが多いです。
まとめ
大腸がんは早期発見が大切です。40歳を過ぎたら大腸がんになる可能性が増加しますので、厚生労働省からも大腸がん検診を年に1回は受けるように推奨されています。
早期発見の大腸がんの場合は、内視鏡の日帰り手術で終了しますので、自覚症状がないうちからの早めの検査を受けるようにしましょう。
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