脊柱管狭窄症は、50歳以上の腰痛の最大原因と考えられている病気です。現在、患者数は国内でおよそ580万人/高齢者に10人に1人と言われており、放置すると、痺れが強くなって足の感覚がなくなったり、痛くて歩行がしづらくなったりと、日常生活に支障が出たり寝たきりや要介護になる事もあるのです。
痺れや痛みの原因は背骨を走る神経の圧迫です。そう聞くと圧迫の原因となっている部分を取り除く手術しかない?と思われる方も多いと思いますが、軽度であれば症状を改善することも可能です。
そこで今回は、脊柱管狭窄症の痺れや痛みのメカニズムと対処法をお伝えします!
脊柱管狭窄症とは?
脊柱管狭窄症とは、さまざまな原因よって、脊柱管や椎間孔と呼ばれる脊髄神経が通る道が狭窄し、脊髄神経や馬尾・神経根と呼ばれる神経に関係するものを圧迫することで、特有の神経症状をきたすことを言います。
脊柱管狭窄症は40歳以上の中高年が発症しやすいとされており、腰部が最も多く、次いで頸部に多く発症します。
私たちのからだは20〜25歳頃にピークに達したあと、老化が始まります。脊椎でクッションの役目をしている椎間板も例外ではありません。年齢を重ねるにつれて老化が進み、腰痛の原因を作ります。腰部脊柱管狭窄症とその症状について、みていきましょう。
脊柱管狭窄症になるメカニズム
ヒトの神経には、脳からの命令を手足に伝える役目を担っている運動神経と、手足や体の各部からの感覚情報を脳に伝える感覚神経があります。これらの神経は、背骨から構成される脊柱管と呼ばれるとトンネルの中を走行しています。また、脊柱管の横には椎間孔と呼ばれる穴があり、そこから手足に向かって走行しています。
しかし、老化などの影響で脊柱管や椎間孔など神経の通り道が狭まると、その中を通っている神経が圧迫されてしまいます。すると、手足の痛みや痺れなどの症状が生じてしまいます。
脊柱管狭窄症のタイプとタイプ別症状とは?
脊柱管狭窄症は、医学的には神経が圧迫される個所によって、主に3つに分類されます。
代表的な症状は、長時間立っている時や歩行時の痛みやしびれです(重症である場合はなにもしていない時でも痛みやしびれは生じます)。多くの場合、しばらく歩くことで痛みやしびれなどが出現し長い距離の歩行が困難となりますが、数分間安静にすることや前屈姿勢・しゃがむ姿勢をとることで再び歩行することが可能となります(この症状のことを間欠性跛行を言います)。
タイプ①:馬尾型
「馬尾型」とは、脊柱管の中心部分が圧迫される場合のことを言います。
- 両足の裏、両足底部の痛み・しびれ(痛みはない場合が多い)
- 長時間の立位や歩行が困難(間欠性跛行)
- 残尿感や尿意切迫感などの膀胱直腸障害
- 異常勃起(間欠性陰茎勃起)などの性機能不全
- 筋力低下(場所によって対象の筋肉が異なる)
タイプ②:神経根型
「神経根型」とは、脊柱管の中心部分(馬尾神経)から分岐した後の神経根が圧迫される場合のことを言います。
- 筋力低下(圧迫されている所によって対象の筋肉が異なる)
- お尻、両足の外型の痛み・しびれ(圧迫されている所によって場所が異なる/片側の場合が多い)
- 長時間の立位や歩行が困難(間欠性跛行)
- 足のつり・こむら返り
タイプ③:混合型
「混合型」とは、馬尾型と神経根型の両方の症状が起きます。
脊柱管狭窄症の原因とは?
原因①:加齢によるもの
脊柱管狭窄症の最も多い原因は加齢によるものです。加齢による「骨の変形・変性」や「靭帯の肥厚や石灰化」などが考えられます。
原因①-1:骨の変形・変性
加齢や長年の姿勢などの影響で、椎間板や背骨が変形・変性して脊柱管が狭まると、その中を通っている脊髄神経が圧迫されてしまいます。また、生まれつき脊柱管が狭いために発症するケースもあるようです。
原因①-2:靭帯の肥厚や石灰化
背骨を結びつける靱帯と呼ばれる組織があり、上下の腰椎を支えています。脊柱管の前後には後縦靭帯と黄色靭帯があり、加齢とともに肥厚や石灰化という変化が生じてきますが、これらの変化が強くなると脊柱管が相対的に狭くなり、脊髄神経が圧迫されるようになります。
原因①-3:椎間板の突出(ヘルニア)
椎間板の突出などで脊柱管が圧迫を受け狭くなる病気のことを言います。
原因②:病気やケガによるもの
「椎間板ヘルニア」や「脊椎すべり症」・「脊椎側弯症」などの背骨が変形する病気が原因となり、脊柱管が圧迫を受け狭くなることもあります。
また、事故や激しいスポーツなどによる衝撃が原因となって脊柱管狭窄症を発症することもあります。
脊柱管狭窄症の検査・診断とは?
脊柱管狭窄症の検査・診断は、「X線撮影」・「脊髄造影」・「CT」・「MRI」などが行われます。
脊柱管狭窄症の診断は、レントゲンだけでは難しく、MRIやCTなどの検査が必要となります。MRIは神経や椎間板などの柔らかく水分を含んだ組織を詳細に写し出し、CTでは骨が飛び出すことによる狭窄などを確かめることができます。また、確定診断のために、造影検査(造影剤を注射する検査)などの検査を追加して行うこともあります。
脊柱管狭窄症は画像の結果と症状が一致しないことも多く、注意して診断を行う必要があります。また、閉塞性動脈硬化症などと言った血管の病気によって脊柱管狭窄症に似た症状が出現することもありますので、その鑑別のために血管の検査を行うこともあります。
脊柱管狭窄症と似た症状が起こる病気とは?
脊柱管狭窄症以外の病気でも、足腰の痛みやしびれ・間欠跛行など、脊柱管狭窄症と同じような症状が起こる病気があります。そのため、画像検査などで症状の原因を正確に調べることが重要です。
①椎間板ヘルニア
「椎間板ヘルニア」とは、背骨の骨と骨の間でクッションの役割を果たしている「椎間板」が、加齢などによって変性・断裂し、その中身が出てきて神経を圧迫する病気です。
脊柱管狭窄症と同じような症状が起こりますが、椎間板ヘルニアでは脊柱管狭窄症とは異なり、前屈姿勢・しゃがむ姿勢をとることで痛みやしびれが生じます。
②末梢動脈疾患/閉塞性動脈硬化症(ASO)
「抹消動脈疾患」とは、「閉塞性動脈硬化症(ASO)や「閉塞性血栓血管炎(TAO)」・「Leriche症候群」などがあり、主に下肢の動脈が狭くなったり詰まったりして血流が悪くなる病気です。
脊柱管狭窄症と同じような症状が起こりますが、末梢動脈疾患では脊柱管狭窄症とは異なり、姿勢の変化では症状は回復せず休憩することで改善がみられ、足の循環不良が生じるため足の動脈(足背動脈)を触知することができません。
③糖尿病性神経障害
「糖尿病」で最も多くみられる合併症のひとつです。糖尿病が進行する事で足の循環不良が生じ神経が障害されることで、足のしびれや痛みなどの症状がみられるようになります。糖尿病にかかっていて、下肢のしびれや痛みがある場合には注意が必要です。
脊柱管狭窄症の治療・リハビリとは?
脊柱管狭窄症の治療には、大きく分けて保存療法、手術療法の2つがあります。
保存療法
日常生活に問題があまりない場合には、慎重に経過観察をしながら保存療法が行われます。
保存療法には、「運動療法」や「リハビリテーション」・コルセットなどを用いる「装具療法」のほか、局所麻酔剤などを注射する「神経ブロック」、鎮痛薬や血行を促進する薬などによる「薬物療法」などがあり、症状が軽い場合は保存療法で改善する事もあります。
神経根ブロックとは、神経が脊髄から出てくる根本の部分に局所麻酔薬を注射することで痛みを軽減する方法ですが、効果は一時的なことが多く、手術前の確定診断として施行されることもあります。
薬物療法では、外用薬として消炎鎮痛剤を用いるほか、内服薬として鎮痛薬や抗炎症薬、神経の血流をよくするための血管拡張剤などが用いられます。
保存療法を続けても改善しない場合や、症状が悪化して歩行や日常生活に支障を来たす場合には、手術を検討しましょう。
手術療法
痛みやしびれが強く、日常生活への支障が大きい場合には手術が検討されます。また、頻尿や尿失禁・排尿障害がある場合には手術が選択されます。
手術療法では、主に、神経を圧迫している骨や椎間板・靭帯などを切除して脊柱管を広げ、神経の圧迫を取り除く「除圧術」と、脊柱管を広げた後に金属やボルトで背骨を固定する「除圧固定術」があります。
また、背骨が変形していたり関節が不安定になったりしている場合には、固定させるための手術を行うこともあります。手術の内容によっては内視鏡手術が選択される場合もあります。
手術は、圧迫されている範囲により手術時間は異なりますが、通常は1-3時間程度になります。
まとめ
脊柱管狭窄症は、主に加齢によって少しずつ進行していく病気です。軽度であれば運動療法やリハビリによって改善が見込めますが、悪化すると痛み・しびれが改善しない最悪の状況になります。そのため、長時間放置せず、違和感を感じたら早めに病院などを受診に対処するようにしましょう。
また、椎間板ヘルニアや抹消動脈疾患/閉塞性動脈硬化症(ASO)・糖尿病などの血流障害でも同様の症状が生じますので、病院などで正確な診断をしてもらいましょう。
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