脂質異常症は、血液中に含まれる脂であるコレステロールや中性脂肪のバランスが乱れた状態です。脂質異常症の人数は増加傾向にあり、厚生労働省の調査では、30歳以上のおよそ3分の1が脂質異常症と診断されていますが、ほぼ半数の人は放置している状態だと言われます。しかし、自覚症状がないため、放っておくと血管はボロボロになり、脳卒中や心筋梗塞など命にかかわる重大な病気に繋がることもあります。
そこで今回は、脂質異常症を引き起こすメカニズムや改善方法についてご紹介します!
脂質異常症とは?脂質異常症の診断基準
脂質異常症とは、血液中に含まれるコレステロールや中性脂肪のバランスが乱れている状態の事です。従来は、「高脂血症」という名前が使われていましたが、2007年に日本動脈硬化学会がガイドラインの変更を行い、診断名を「脂質異常症」に改訂しました。
脂質異常症の診断は、健康診断の検査項目にある3つの数値を指標とします。下記の診断基準のうち、どれか1つでも当てはまった場合は脂質異常症です。
血液中の中性脂肪やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が基準値よりも高すぎても、逆にHDLコレステロール(善玉コレステロール)の値が低すぎても、動脈硬化を引き起こすリスク因子になります。
コレステロールとは?
人間の身体は細胞から成り立っていますが、この一つ一つの細胞を包んでいる細胞膜の材料がコレステロールです。また、コレステロールはの8割は肝臓で作られ、血液中にある脂質の一種ですが、肥満の原因になるわけではありません。身体の機能を保つホルモンや、小腸で食べ物の消化吸収を助ける胆汁の材料にもなっているなど、コレステロールは体内において重要な役割を果たしています。
このコレステロールには大きく2つの働きがあり、血液に乗って全身に運ばれていきますが、運ぶ役目を担っているのが「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)」と「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」です。
中性脂肪とは?
中性脂肪とは、体内であまり過ぎたブドウ糖(糖質)が、体内に蓄えられる際に変化したものです!大切なエネルギー源のひとつですが、中性脂肪が体内で増えすぎてしまうと血管に負担をかけ、傷つけたりして動脈硬化を進行させるリスクがあります。また、心臓病や脳卒中などの様々な命にかかわるリスクを高めてしまうこともあります。
脂質異常症が発症する(悪玉と善玉のバランスが崩れる)原因
原因①:生活習慣
脂質異常症の多くは、運動不足や偏った食事・喫煙・アルコールなどの生活習慣が原因によって起こります。特に、お腹の中に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」の方は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が多くなり、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が少なくなりやすい傾向があります。
揚げ物などの脂質の多いものや肉・バターなどの動物性脂肪に含まれる脂は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増えやすくなってしまいます。
魚やナッツ類に含まれている不飽和脂肪酸は良質な脂になりますので、摂取してもコレステロールには問題はありません。
原因②:遺伝
遺伝的な要因によって起こるものとしては、遺伝子の異常が原因で血液中にコレステロールや中性脂肪が異常に増えてしまう「家族性高コレステロール血症」と呼ばれているものもあります。
また、生まれながらの体質的な要因が関係することもあり、他の病気と関係なく発症するものを「原発性脂質異常症」といいます。
親や祖父母・兄弟など血のつながったご家族に、脂質異常症や心筋梗塞(男性の場合:55歳未満、女性の場合:65歳未満)を起こした方がいる場合は、遺伝によるものの可能性が高いです。
原因③:他の病気や薬の影響
生活習慣の乱れや遺伝的な要因で起こるもの以外に、他の病気や服用している薬の影響で、血液中の脂質のバランスが悪くなることによって脂質異常症を発症することがあります。他の病気や服用している薬などが原因で生じるものを「二次性(続発性)脂質異常症」といいます。
脂質異常症と関係がある病気には、甲状腺機能低下症や副腎皮質ホルモン分泌異常(クッシング症候群・先端巨大症)・糖尿病や腎臓病(ネフローゼ症候群)などが知られています。また、原因となる薬剤として、ステロイドホルモン・β遮断薬・経口避妊薬などが知られています。
脂質異常症の症状と今後のリスク
脂質異常症は、基本的に症状が現れないことが多いです。しかし、体質的要因である「原発性高脂血症」や「高コレステロール血症」では、皮膚に特徴的な「黄色腫」を生じることがあります。また、眼球に「角膜輪」と呼ばれる白い輪がみられたり、「肝腫大」がみられたりすることもあります。
脂質異常症をそのまま放置していると、血液がドロドロになり、血管を詰まらせたり、傷つけたりして動脈硬化を進行させるリスクがあります。さらに、狭心症や心筋梗塞・脳梗塞など重大な合併症を引き起こす危険もあります。
HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値が、40mg/dLを下回ると、虚血性心疾患や心筋梗塞の発症リスクが高まりますので、注意してください!
出典:日本動脈硬化学会:高脂血症診療ガイドライン
治療ガイドラインに基づいた治療・改善法
脂質異常症を放置すると、全身の血管の動脈硬化が徐々に進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な合併症が出現します。そのため、動脈硬化の予防や進展の防止による治療・改善が必要になります。早期発見が重要であると同時に、日頃からのライフスタイルや薬物使用に気を配り、脂質異常症が発症しないようにすることが必要となります。
脂質異常症の管理・治療法にはライフスタイルの改善(生活療法)と薬物療法があります。
生活習慣の改善
生活習慣の改善項目は、動脈硬化の危険因子も考慮して、下記の4つです。
- 禁煙
- 食生活(食事内容・食行動)の改善
- 適正体重の維持と内臓脂肪の減少
- 身体活動の増加
LDLコレステロール(悪玉)が高い人
LDLコレステロール(悪玉)が高い原因は、飽和脂肪酸の摂り過ぎがあげられます。飽和脂肪酸は、バターやラード・生クリーム・肉の脂身、インスタントラーメンなどの加工食品にも多く含まれていますので、控えるようにしましょう。また、喫煙はLDLコレステロールを増やす作用がありますので、必ず禁煙しましょう。
HDLコレステロール(善玉)が低い人
喫煙はHDLコレステロールを減らす作用がありますので、必ず禁煙をしましょう。また、ウォーキングなどの有酸素運動には、HDLコレステロールを増やす働きがありますので、軽強度の有酸素運動を30~60分/日、週3回以上行うようにしましょう。
中性脂肪が高い人
中性脂肪が高い原因は、糖質やアルコールの摂り過ぎがあげられます。糖質の入ったコーヒーやソフトドリンクを飲む習慣のある人も多い傾向がありますので、控えるようにしましょう。
また、ウォーキングなどの有酸素運動や減量を行うことで、中性脂肪を下げることができます。さらに、魚に含まれる不飽和脂肪酸には、中性脂肪を下げる働きがありますので、おすすめです。
薬物治療
まず食事や運動を含んだライフスタイルの改善を行い、動脈硬化による病気を起こすリスクが高いときには薬物療法が追加されます。
薬物治療には大きく2種類の薬があり、1つは、コレステロールの値を下げる薬で、もう1つは中性脂肪の値を下げる薬です。高血圧や糖尿病を合併している場合は、それぞれの治療も行いましょう。
まとめ
血管は年齢と共にかたくなりますが、脂質異常症などの生活習慣病があると動脈硬化も早まってしまいます。普段の食事と運動に注意し、血液中の脂を正常に保ちましょう。また、診断基準と原因分類から適切な治療方針を選択しましょう。
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